プロの住宅レシピ 分けた敷地でつながって暮らす──家族と記憶を編み直す住まい
もともと一つだった敷地を二つに分け、姉妹それぞれの家族が隣り合って暮らす──この住まいは、父と娘が暮らすために計画された住宅です。
お姉さん家族の住まいとゆるやかに繋がって日常が重なっていく。お姉さんのご主人が手がけたウッドデッキや、斜面を活かした植栽からも、家族の手が入り続ける環境であることがうかがえます。
隣の玄関と向かい合う配置もこの家ならではの特徴。お孫さんたちが遊びに来ると、正面にキッチンが見え、自然と人が集まります。調理の場であると同時に家族を迎え入れるカフェのような役割を担うキッチンは暮らしのハブとして据えられています。
素材選びにはお父様の原風景が色濃く反映。和歌山出身で、ご実家が山を所有していたという背景から、現在山を管理している方に依頼し杉の木を切り出して柱や梁、フローリングとして使用。「自分が育った山の木の中で暮らしている感覚」を大切にし、故郷の記憶とつながる素材として住まいに取り込んでいます。
猫二匹との暮らしもあり、トイレスペースを確保しつつ、吹き抜けや丸太の梁を設けることで、上下に動き回れる立体的な空間をつくっています。
また、片付けが苦手という住まい手の悩みに対しては単に収納を増やすのではなく、ヒアリングや建て替え前の暮らしを分折してしまう場所をつくりました。そしてアドバイスを含めた計画で無理なく整う暮らしを目指しています。
南側には高さ約5メートルの擁壁があり、その上には公園の大きな桜。日差しが十分に入る条件ではありませんが、リビングを吹き抜けとし窓から桜を望める構成に。さらに天窓を設けることで光と風を上から取り込み、暑い季節には暖まった空気を逃がすようにしています。
トイレの壁のアクセントとして使われた屋久杉のタイルも人との縁から生まれた素材。山の管理をしている方が作業場で作っていたものを分けてもらい、住まいの一部として組み込んでいます。設計図だけでは決まらない選択がこの家に静かな物語を与えています。
家族、記憶、猫、自然。さまざまな関係を丁寧に受け止めながら編み直した住まいは、時間とともに深まっていく確かな居場所となっています。