プロの住宅レシピ 「ねこやぐらの家」 小さな住まいで育む、ちょうどいい距離感
台風の多い地域に建つ屋根の見付面積を抑えた、折り曲がったような形が特徴のこの住まいは、約20坪の限られた敷地に建つ小さな木造住宅です。
動物看護士として地域の野生動物や保護猫の治療・保護活動にも携わることから、動物と人が共に安心して暮らせる住まいづくりを目指しました。
中央の柱は屋根を支える構造体でありながら、猫にとっての動線や遊び場としても活躍します。麻縄を巻いた柱を猫がよじ登り、梁の上を自由に歩き回る姿は日常の光景です。
室内の中心に設けた土間は、リビングでもあり、猫たちの遊び場でもあります。中央部は天井を高くして人が過ごす開放的な空間に、外周部に設けたロフトは天井を低く抑え、収納や猫の隠れ家として機能しています。性格が違う猫たちが安心して過ごせる居場所になっています。さらに、限られた面積の中に高低差を設けたことで、外観から想像する以上の広さと伸びやかさを感じられます。
内装は、猫が壁をひっかいても補修しやすいよう塗装仕上げとしました。長く使えることを優先したことで、長期的に見ればコストダウンにもつながります。
天井や建具にはラワンベニアを用い、木目のあたたかさと素朴な風合いを大切にしています。フローリングも無垢材を採用し、猫の爪あとがついても目立ちにくく、経年変化も楽しめる仕様です。
階段上部のキャットウォークにはデスクを組み合わせるなど工夫を重ねることで、限られた敷地の中で人と猫が共に心地よく過ごせるようにしました。
この家に暮らし始めてから、猫たちは思い思いの場所でくつろぎ、のびのびと過ごしているそうです。小さな家でありながらも、人と動物の距離感を大切にし、動物たち同士も程よい距離を見つけて暮らせる住まいとなりました。
Photo : 長谷川健太