プロの住宅レシピ 棚と建具でつくる余白──用途を固定しない空間のつくり方
この社屋改装は、限られた予算条件の中でどのように空間を組み立てるか、という現実的な課題から始まっています。新築や大規模な作り込みは難しく、既存建築の骨格を活かしながら、必要な機能をどう成立させるかが計画の出発点でした。
内部はスケルトン解体によって一度リセットされ、骨組みだけの状態から再構成。壁で細かく間取りを確定させるのではなく、建具や家具、棚といった要素によって用途を整理する方法が採られました。
これは、将来的な改装や使い方の変更を容易にするための構想でもあります。住宅において、家族構成や生活スタイルの変化に備えて余白を残すように、社屋にもまた更新の余地が組み込まれているのです。
その象徴的な要素が2階に設けられた造作棚です。建築外周に沿って回廊状に配置されたシナ合板の棚は、単なる収納ではなく、空間をかたちづくる骨格として機能しています。
棚の内側には執務空間と休憩スペースが収められ、回廊側にはキッチンやOA機器、ロッカー、打ち合わせの場が割り当てられています。壁を立てる代わりに、棚が用途と居場所を緩やかに分けているのです。
執務スペースと社員の休憩スペースは、引き戸によって仕切られ、必要に応じて一体利用が可能に。日常業務ではそれぞれの役割を保ちつつ、社内イベントや打ち合わせの際には空間を解放できます。固定された用途ではなく、使われ方によって性格が変わる構成が、働く場に柔軟さを与えています。
天井は躯体と設備を現しとし、床はコンクリートとすることで、仕上げによる強い性格付けを避けている点も特徴。これはコストを抑えるためだけでなく、後から手を加えやすい状態を保つための選択でもあります。
可変性とは、単に動かせることではない。変わることを前提に、あらかじめ余白を用意しておくことだと言えます。この社屋は使いながら更新され、許容する余地を残しています。
完成をゴールとしない設計のあり方は、住まいづくりにおける設えの考え方と通ずる意識として、静かにこの建築を支えているのです。